信じられないハーディンの裏切り、そして深い愛。彼の中に両方を感じて戸惑うテッサ。自身もまたハーディン以外に情熱的な愛を感じられずにいた。ハーディンもまた……。テッサとハーディン、愛の行方は!?『AFTER seasonⅡ 壊れる絆』ついに連載最終回!
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ひりひりとせつない……テッサの愛ほんとに、誰かにキスしたのか?」
わたしが返事をする前に彼はまた、質問してきた。
「うん」と答えたものの、はっと息をのむ音がしたので衝撃を和らげてあげようと言い添えた。「一度だけね」
「なぜだ?」
冷静だけど、激しい憤りが伝わってくる声。不思議な響きだ。
「正直言って、わからない……電話でのあなたの応対がおもしろくなかったし、すごく飲み過ぎてたせいかも。だから、クラブで会った彼と踊ってたら、キスされたの」
「そいつと踊った?踊ったって、どんな?」
わたしが何してたかをいちいち知りたがるハーディンがうざい。もう、つき合っている仲じゃないのに。「それは知らないほうがいいと思うわ」
彼の返答が、周りの空気をふたたび重くする。「いや、知りたいね」
「クラブでみんながするように踊ってただけ。それから彼がキスしてきて、わたしを自分の部屋へ連れていこうとしたの」と答えて天井のファンの羽根を見つめる。いまは張り詰めた空気を切り裂く役に立っているけど、このまま彼と話し続けていたら、ファンを止めなければならなくなるだろう。
わたしは話題を変えようとした。
「電子書籍リーダー、ありがとう。すごく心のこもったプレゼントだわ」
「そいつはきみを自分の部屋へ連れていこうとしたって?きみはついていったのか?」
ハーディンがもぞもぞする音がした。きっと、体を起こしたのだろう。こちらはマットレスに横たわったままでいた。
「その質問をする必要ある?わたしがそんなことするはずないのは、わかってるはずだわ」
「ふん、きみがクラブで赤の他人と踊ったりキスしたりするとは思ってもみなかったね」ハーディンは大声で吠えた。
すこし沈黙が続いたのち、わたしは口を開いた。「予想外のことを聞いて驚くのはいやだと思うわ」
またしても毛布を引きずる音がしたかと思うと、ハーディンが隣にいた。すぐそばで声がする。
「言ってくれよ。頼むから、やつについていったりしなかったって言ってくれよ」
すぐ隣に座るハーディンから、わたしは離れた。
「わかってるはずでしょ。あの晩、そのあとであなたに会ったんだから」
「きみが言うのを聞かないと気がすまない」
荒々しいけど、必死に訴えるような口調。
「そいつには一度キスしただけで、それから口もきいてない、って言ってくれ」
「彼には一度キスしただけで、そのあとはひと言もしゃべってない」
ハーディンの台詞を繰り返す。どうしても聞きたいという気持ちがわかったからだ。
シャツの襟からはみ出て見える、うずを巻くようなタトゥーにじっと目をやった。彼と同じベッドにいると思うと、落ち着くと同時に心がひりひりしてせつなくなる。こんなふうに宙ぶらりんの気持ちのまま葛藤するのは、もう耐えられない。
「ほかにおれが知っておくべきことはあるか?」
ハーディンは小声で言った。
「ないわよ」
うそだ。トレヴァーとデートしたことは話していない。でも、何も起こらなかったし、ハーディンには関係ない。わたしはトレヴァーが好きだし、ハーディンという、いつ爆発してもおかしくない時限爆弾からは遠ざけておきたい。
「ほんとだな?」
「ハーディン……あなたはわたしをしつこく責め立てる立場にはないと思うけど」
そして、彼の目をじっと見る。
「わかってる」
驚いたことに、ハーディンはそう答えた。
彼がベッドから下りていく。わたしは、胸にぽかりと穴が空いたような感触に気づかないふりをした。
おれのいるべき場所……ハーディンの愛きょうは地獄のような一日だった。自業自得だからよろこんで受け入れたが、やっぱり地獄には変わりない。
空港からアパートメントに戻ってきて、まさかテッサがいるとは思わなかった。ガールフレンドはクリスマスで実家に帰ってるから、いない。そんな、ありきたりなうそで母さんをごまかしておいたのに。
ちょっと文句は言われたものの、しつこく質問されたり追及されたりすることはなかった。おれが特定の彼女とつき合ってることを母さんはすごく喜び、そして驚いていた。母さんも親父も、おれがひとりきりの人生を送るものだと決めてかかってたみたいだ。まあ、おれもそう思ってたんだけど。
ひねくれた見方だとは思うが、一秒だってテッサのことを考えずにはいられないのが不思議だ。三カ月前まではひとりでいたかったというのに。
あのころは、自分に何が欠けているのかがわからなかった。でも、ようやくそれがわかったいま、もう後戻りできない。そんなふうに思わせるのは彼女だけだ。何をしていても、テッサを頭から振り払うことができない。
もう、こんなことはやめにしよう。彼女のことは忘れて先へ進もうと思ったけど……最悪だった。
土曜の夜にデートしたブロンドの彼女は非の打ちどころがないほど感じよかったものの、テッサじゃなかった。当たり前だ、テッサに代わる女子なんていない。
たしかに、見た目や服装はテッサに似てた。おれが罵り文句を口にすると顔を赤くしたし、ディナーのあいだもずっとおれをすこし怖がってるふうだった。そう、感じはいいんだけど、つまらない子だった。
テスが持ってるような熱いものがあの子には欠けていた─おれの下品な言葉づかいをたしなめたりもしなかったし、ディナーの最中に太ももに手を置いても何も言わなかった。
日曜には教会に行くような彼女がおれとデートしたのは、不良に対するくだらないファンタジーをちょっと体験してみたかっただけだろう。
まあ、いい。こっちも彼女を利用した。テッサがいなくなって空いた穴を埋め、テッサがトレヴァーのくそ野郎とシアトルでいることを考えずにすむよう、彼女とデートしたんだから。
彼女にキスしたときの罪悪感ときたら、たまらなかった。おれが体を引くと、うぶな顔に困惑の色を浮かべていた─そんな彼女をひとりレストランに残し、おれは車に逃げ帰ったも同然だった。
体を起こし、眠っているテッサをじっと見つめる。どうしようもないくらい、好きだ。
彼女が掃除してきれいになったアパートメント。洗濯機には彼女の服、バスルームには歯ブラシまであって、彼女がこうして寝ている……どうしても期待してしまう。でも、期待なんかするだけ無駄だよな。
許してくれるかもしれないというわずかな望みに、おれはすべてをかけている。テッサがいま目を覚ましたら、立ち上がって彼女の寝姿をじっと見つめているおれに気づいて叫び声をあげるだろう。いままでみたいに追い詰めてはだめだ。テッサとはすこし距離を置かなくては。自分の振る舞いや揺れる感情に翻弄されて、おれも精神的にまいってる。どう対処したらいいのか、まったくわからない。
でも、絶対に解決策を見つけてみせる─なんとか元の状況に戻さなくては。テッサの顔にかかる柔らかな髪をそっと払ってやり、おれはなんとかベッドから離れた。コンクリートの床のうえに積まれた毛布の山。そこがおれのいるべき場所だ。
今夜こそ、眠れるかもしれない。
そこにあるのは平穏でも安らぎでもなく、激しい情熱、そしてときに傷付けあう苛烈な愛。テッサとハーディンの物語……まだまだ続きます!続きはぜひ、書籍でお楽しみください。
引用URL:http://woman.excite.co.jp/article/love/rid_Menjoy_277873/
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